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山あいで狩猟採集生活を目指す野楽生(のらぶ)のあしあと

野楽生れば

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兎解体
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    去年のこと。仕事を終えて山への帰り道、あたりは早くも夜の色に染まりつつあった。山と街をつなぐ谷間の国道は、それなりに交通量がある。

    道路の中央あたりに、はねられた兎が身もだえているのを視認した。反対車線の、次に車が来れば十中八九轢かれる位置だ。
    路肩に停車し車外へと飛び出しながら思考が閃く。選択肢はふたつ、轢かれない道路外へ移動させて逃がすか、止どめを刺して食べるかだ。

    近よって見るとかなり打撃を受けたように感じた。 ふつう、 野生動物は人間とは比べものにならない頑丈さをもっている。大型獣ならライフルの弾を数発被弾しても、急所でなければ怪我の様子も見せずに逃げ去るほどだ。車にはねられて骨折したくらいでは、動きがとれなくなることは無い。
    この兎が野生の者であることは一目見ればわかる。もがき動いている四肢に外傷が見られないことから、頭部に傷を負ったものだと感じた。

    ひょっとしたら、はねられた直後で脳震盪を起こしているのかも知れない。だとしたら道路の外の安全な場所へ寝かせておけば、しばらくすれば山に帰って行くはずだ。
    だが、かなりの出血があった。動き方からも、大きな傷を受けているように強く感じた。

    道路の真ン中でのんびりしているわけにはいかない。とにかく車に戻り、兎はトランクへ入れて移動した。
    駐車に充分なスペースを探しながら走らせる。その間、兎がトランク内で跳ねたりしている音が聞こえた。
    突然函の中に閉じ込められて、不安と焦りで狼狽しているのだろう・・・。自分のしていることがオキテにのっとったことなのか、自問の冷や汗が出る。

    路肩の外側に幅広い空間をとっている場を見つけて、なるべく道路からはなれた所に車を停め、エンジンを切る。兎に出逢ってから過ぎた時間は二、三分だろうけれど、ずいぶんと時が経った感じがした。
    兎は動きをやめて、静かになっていた。
    でも、死んでいるはずがない。そういう感じがしないのだ。
    万が一跳び出すことに注意しながら、トランクカバーを持ち上げる。兎は静かだった。完全に人間に捉えられた野生のものは、機を窺う緊張から小刻みに震えているものだ。それは武者震いと呼ぶに相応しい力強い戦き(おののき)だ。
    しかしこの兎は何か違った。強さを感じられなくなっていた。

    様子を見ながら、かれがはねられてからの時間を憶測してみる。脳震盪の場合、どれくらいで意識を取り戻し、逃げられるようになるだろうか・・・

    決定的な判断材料をおれはもっていなかったが、兎の姿、手に持っている感触から、勘にしたがって止どめを刺すことに決めた。

    山に暮らしていると刃物が重宝する。枝を払ったり木を伐って急ごしらえの杖や棒を作ったり、なにかと必要になることがある。おれはいつも鉈かナイフを持つようにしている。このときは両方を持っていた。兎にむかって、命をいただくことを念じ、ナイフで頚動脈を切る。けものの頸はこまやかな毛におおわれていて、意外に簡単にはいかないものだ。けれどもこのときの兎は抵抗がまったくなく、刃はその切れあじをすみやかに発揮した。
    自分が生きるに必要なとき以外、命を奪わないように、命を奪う時は出来る限り苦しむことがないように―――タシナさんの言葉は常にこころにある。

    命を獲ることの実感は重い。

    しかし、兎を食べられること、家族に持って帰れることは、とても嬉しい。
    殺しは楽しんではいけない。しかし糧を狩ることは、無上の喜びだ。




    帰宅してからお風呂場で解体にとりかかる。鹿のときと違い、小さくて軽いので作業はずっと楽そうだ。内臓を取るために腹を開くとそれだけ毛がくっつく面が多くなって洗うのが面倒になる。まず毛皮を剥いて、内臓を取るのはその後にする。


    喉から会陰まで裂き、さらに四肢の内側に切れ目を入れる。
    後ろ足から徐々に剥いていく。



    頸まで剥いてから、頭を切り離した。
    鹿よりも小さくて剥くときに力を入れやすいのか、あるいは脂肪が少いせいか、皮は剥がれやすかった。ただ、大動物より皮がうすくてやぶけやすい、と狸を皮剥きした龍の字が言っていたので、慎重に作業する。


    われながら上手に剥くことができた気がする。
    形見分けで貰った祖父のチョッキは裏地に兎の毛皮を使っていて、本当にあったかい。この毛皮で、やがてそんな衣類などを鞣し作れたらいいなと、空想をふくらませる。

    皮を剥いだら内臓を取る。そして四肢を取り分けるにとどめておいた。肉を骨からはがすことはしない。
    皮を剥ぐ時に、注意はしていても肉に毛がついてしまう。洗えば落ちるものだけど、水につければつけるほど肉の味が逃げていってしまう。できるだけ無用に作業することのないよう、毎回考えながら解体していく。

    頭は、皮を剥いでから頬肉や頸のまわりの肉をとる。

    なぜ思いつかなかったか不思議なのだが、頬肉をとったりせずとも頭ごと鍋に入れてしまえば一番無駄なく食べられたのだ。この時は鞣し用に脳を掻き出した後、頭部は野にかえして鴉や小動物が食べるにまかせた。頭骨からもいい出汁がでたのになぁ。

    頬肉をとる時、片側の頬のあたりの骨が細かく砕けているのに気づいた。顎がはまらなくなっており、内部への傷も小さくないと感じた。これが致命傷だったのだと思う。

    * * * * * * *

    数日後、おかマタギが腕を振るう。



    熱い鉄鍋に置いた肉はたちまち香ばしい匂いを上げはじめた。ほったらかし畑で育ったにんにくは、小粒でも強力な深い香りと味わいがある。かといって肉の味を壊すことはなく、とてもよく合った。



    切り分けてから、スープスパッゲッティーに載せる。




    肉汁――旨みを逃がさないように細心の工夫をしてあるため、兎肉の野生の味わいがたまらなく美味い。
    肉はさすがに柔らかかった。鶏肉のようだとよく聞くが、調理後の姿は、知らなければ鶏肉と間違えるかも知れない。食べてみて、柔らかさと癖の無さはたしかに似ている。
    けれども“濃いい”この味は兎だけのものだと思う。

    鹿肉とはまた別の、とても豪勢な一食だった。
    | 狩り | 23:19 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |
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